よふけ

「不倫」と打っても、検索候補はひとつも出てこない — 浮気の検索語2,514個を集めた

2026年8月6日 よふけ

検索窓に何かを打ち込むと、続きの候補が出てきます。あれは、同じ言葉を打った人が他にもいる、ということの証拠でもあります。

浮気について、人は検索窓に何を打ち込んでいるのか。443通りの入力を試して、返ってきた候補を2,514語集めました。この記事はその結果です。

最初に立場を書いておきます。私は「よふけ」という、浮気の悩みを聞くLINEのサービスを作っている側の人間です。中立な第三者の調査ではありません。ただ、これから出す数字はすべて自分で集めたもので、集め方も書きます。都合が悪くて外れたところも、そのまま書きます。

何をしたか

Googleには、入力中の文字に対して候補を返す仕組み(オートコンプリート)があります。これを機械的に叩きました。

「浮気」「浮気され」「浮気された」「浮気してる」「不倫」の5つを起点に、うしろへ五十音を1文字ずつ足していきます。「浮気された あ」「浮気された い」……という具合です。こうすると、起点だけを打ったときには出てこない候補まで拾えます。

443通りの入力を試して、候補が1件でも返ってきたのが344通り。集まった語は重複を除いて2,514語でした。

先に、この数字の性質を書いておきます。候補の数は検索された回数ではありません。 何人がその言葉を打ったのかは、この方法では一切分かりません。順番も検索数の順とは限りません。ここで言えるのは「そういう検索語が実在して、検索エンジンが候補として出す」というところまでです。大小を比べる根拠にはできません。

「浮気された」のあとに続いた590の言葉

いちばん多く集まったのが、この形でした。並べます。以下はすべて、実際に候補として返ってきた語です。

読んでいて手が止まったのは「痩せた」と「過呼吸」でした。気持ちの話ではなく、体に出ているという話です。

それから「触られたくない」。この一語だけで、何が起きているのかが分かってしまう。

そして「魅力ない」。浮気をされた側が、自分に魅力がないのではないかと検索している。 順序が逆だと思うのですが、これを打った人がいて、しかも候補として出るということは、打った人が一人ではないということです。

打ち明けられた側も、検索していた

集めた語を眺めていて、想定していなかったものが出てきました。

言い方を変えただけの語が5通りも出てきます。これらを打っているのは、浮気をされた本人ではありません。打ち明けられた側です。

以前、Yahoo!知恵袋の質問303件を数えた記事を書きました。そのとき、いちばん的確だと思ったのは相談者の言葉ではなく、ある回答者の言葉でした。「相談っていうのは何を相談するんでしょうか?(略)家もそうだよーとは言えませんし、あなたに魅力がないからじゃない?とも言えませんし、離婚しちゃえば?とか無責任なことも言えません」。

聞かされた側も困っている、という話です。それが今回、別の角度から出てきました。困った人が、検索窓に「かける言葉」と打っている。

友達に相談したのに「別れなよ」しか返ってこなかった、という話は、相手が冷たいからではないのだと思います。かける言葉を探して検索するくらいには、相手も困っている。 それでも見つからないから、いちばん角の立たない言葉に着地する。

外れたこと:割合を出そうとして、出せませんでした

2,514語を「証拠を掴みたい」「お金と手続き」「気持ちの話」といったカテゴリに分けて、割合を出すつもりでした。そのほうが記事としてはきれいになります。

できませんでした。

語に含まれる言葉で機械的に振り分けたところ、6割が「その他」に落ちました。 曲名、小説、芸能人の名前、占い、ゲームの登場人物。「浮気」という語はそういうものにも大量に使われていて、悩みの検索語だけをきれいに抜き出すことが、私の書いた分類ではできませんでした。

無理に線を引き直せば、それらしい円グラフは作れます。ただ、6割を手作業で仕分けた結果に「〇〇%」と付けたら、それは測定ではなく私の判断です。なので割合は出しません。この記事で数として出すのは、機械的に数えられるもの(集めた語の総数、「浮気された」で始まる語の数、候補が0件だった入力の数)だけにしました。

そのうえで、分類の作業中にはっきりしたことが1つあります。気持ちの言葉は、少数派でした。 候補として多く用意されていたのは、相手の行動の特徴、確認の方法、アプリ、慰謝料の相場です。集める前は逆を予想していました。検索窓には気持ちのほうが多く打ち込まれているはずだ、と。外れました。

理由を1つ思いつきましたが、確かめられていないので仮説として書きます。気持ちの言葉は、人によって言い方が違いすぎるのではないか。 「慰謝料」は誰が打っても「慰謝料」です。でも、あの夜のあの感じを打ち込もうとすると、「つらい」「しんどい」「無理」「頭から離れない」「涙が止まらない」と、いくらでも分かれます。分かれた語は、候補として浮かび上がるほどの塊になりません。

つまり、少数派に見えるのは、そう感じている人が少ないからではなく、同じ言い方をしないからかもしれない。これは確かめていません。

「不倫」だけ、候補が出ない

ここからが、この記事でいちばん書きたかったことです。

集めた2,514語のうち、「不倫」を含む語は0語でした。

集め方が悪かったのではありません。起点の1つに「不倫」を入れて、「不倫 あ」「不倫 い」……と89通り試しています。その89通りすべてが0件でした。

念のため、他の言葉でも試しました。同じ日、同じ方法です。

入力した言葉 返ってきた候補の数
浮気 15
浮気 慰謝料 15
浮気 つらい 15
離婚 15
うつ 15
借金 15
不倫 0
不倫 慰謝料 0
不倫 つらい 0
自殺 0
風俗 0

離婚も、うつも、借金も出ます。浮気も出ます。不倫だけが出ません。そして不倫が0になる並びに、自殺と風俗が入っています。

これがGoogle固有のものなのかも確かめました。同じ「不倫」を他の検索エンジンで叩くと、Bingは12件、DuckDuckGoは8件の候補を返します。「不倫小説」「不倫 慰謝料 相場 離婚」といった、ごく普通の候補です。

つまり、打ち込んでいる人がいないから出ないのではありません。 出す仕組みを持っている側が、出していません。

理由は、公表されていません

Googleは「Google の予測入力候補の仕組み」というページで、削除する候補の方針を公開しています。暴力、露骨な性表現、ヘイト、中傷、危険を表す候補、下品な言葉、といったカテゴリが挙げられています。

ただし、個別の語がどれに当たって消えているかは公表されていません。 なので「不倫はこの方針のこれに該当して消えている」とは書けません。私に分かるのは、上の表に書いた事実だけです。

方針の是非を論じたいわけでもありません。書いておきたいのは、その手前のことです。

検索窓に言葉を打ち込むのは、たいてい、誰にも聞けないときです。人に言えば顔色が変わる。既読がつく。あとに残る。検索窓はそのどれも起きない、唯一の場所に近い。

そこに「不倫」と打った人が見るのは、何も出ない空欄です。

候補が出るということは、同じ言葉を打った人が他にもいる、という合図でもあります。それが出ないと、自分だけが異常なことを打っているような感じがする。実際には、別の検索エンジンでは普通に候補が並ぶくらいには、同じ言葉を打っている人がいます。

集めてみて残ったこと

2,514語のほとんどは、相手を疑うための言葉でした。特徴、サイン、アプリ、確認の方法。検索の世界に用意されているのは、まず「見抜く」ための道具です。

そのあいだに、「涙が止まらない」「痩せた」「触られたくない」が混ざっています。数としては少ない。でもこれらは、誰かに言うのではなく、検索窓にだけ打てた言葉です。

前の記事を書いたとき、「誰にも言えない」と書いた人が7.3%しかいなかったことについて、言えない人はそもそも投稿しないから少なく見えるのだと書きました。今回も同じことを思っています。打ち込んですらいない言葉は、当然ここには入っていません。

数えられるのは、いつも、なんとか形にできた人のぶんだけです。


私は「よふけ」という、こういう話を聞くだけのLINEのサービスを作っています。結論を出させないこと、「別れろ」とも「許せ」とも言わないことを方針にしています。最初の50回は無料で、そのまま使わなくなっても料金はかかりません。合わなければ、何もしなくて大丈夫です。

よふけについて

なお、この記事で引用したのは検索エンジンが返した候補語だけです。よふけをご利用の方のお話は、匿名にしたうえでも、一切使いません。

数え方を確かめたい方のために、収集に使ったスクリプトの動作を書いておきます。Googleのオートコンプリートに、起点の語とそのうしろに五十音を1文字足した入力を、1件あたり0.25秒の間隔で投げ、返ってきた候補をそのまま保存しています。集計日は2026年8月6日です。候補は日によって変わりますので、同じ日に同じ結果になることを保証するものではありません。

よふけは、パートナーの浮気やその疑いで眠れない夜に、ただ話を聞くだけのLINEのサービスです。 「別れろ」とも「許せ」とも言いません。最初の50回は無料で、そのまま使わなくなっても料金はかかりません。

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